お侍様 小劇場 extra

    “わっくわくのふっわふあvv” 〜寵猫抄より***
 

例えば 例えば。

視野の端っこ、転がってった何かに気づき、
小さな肩がふるると震える。
蛍光レッドのビニールボールが、
フローリングの上を とんとん・ころろと。
窓辺へ向かって、軽やかに逃走するのへ。
前脚後脚、そりゃあ見事に合わせちゃ跳ね上げ。
小さな身を毬のように弾ませての たかたかと。
時折 勢い余ってよろけながらも、待て待て待ってと追っかける姿は、

『まるで小さなチーターみたいですよねvv』

林田くんは そう言うのだけれど。

「にぁん♪」

小さなお口からこぼれる声こそ、
甘い鈴の音のような仔猫のそれだが。
たったかたったか…だなんてとんでもない。
七郎次には、お膝もほとんど曲げないままの とたとたと、
待って待ってと追っかけている、和子の姿でしか見えぬので。
いけないと判っているのにそれでも手が出かかるほどの、
そりゃあ覚束ない歩みようでしかなくて。
やっと追いつき、捕まえた獲物が、
だのに ぴゅるりと、ふかふかな手を逃げて。
窓ガラスに当たって跳ね返り、
元来たこっちへ戻ってしまったという一連の展開に、

「みゅうぅ?」

ありゃりゃ?
赤い影は追えたけど、でもあのね?
逃げるどさくさに、坊やの頭にポンと当たってったのが、
あまりの不意打ちだったので。
今の誰? 頭ポンした奴、どこ行った?
いかにもそんな様子を忍ばせる焦りようで、
周囲をキョロキョロするところが、

「〜〜〜〜。/////////」
「うんうん、今のは可愛かったですよね。」

判りましたから、
感極まって何も言えない代わりに、
人の背中をバンバンとどやすのは、
出来れば辞めてくれませんか、シチさん…と。
林田くんが困ったように微笑って見せてしまったり。


  そうかと思えば、


いつも鼻先でひらひらと振ってもらっては、
その軽やかな動きを目で追って。
最初のうちは手の先でちょちょいと、
そして しまいにゃ小さな身でド〜ンッと、
大胆にもフライングアタックして遊ぶターゲット。
白地の先っぽが黒や茶色という、
本格的な水鳥の羽根で作られた猫じゃらしをフリフリされて、

「みゃっ!」

バネ仕掛けですかという素早さで、
ひゅっと飛び出す前脚の、何と鋭いことだろか。
少し遠のいたの、追っかけもせず。
一丁前にも板の間に上背を伏せ、
か細い背中をしならせつつ、
後脚にバネをためて様子を窺い始めると。
来るぞ来るぞと、こちらも妙に盛り上がる。
棒の先を床にくっつけ、
そこから大きく動かさぬままにした羽根飾り。
久蔵がそれへと狙いを定めているのは明白なので。
仔猫相手に無茶もさせられぬと、
フェイントで逃げることより、
飛び込んで来るだろ先に危険なものはないかと。
ちろっと辺りを見回した、こちらの隙を見事に突いて、

「にゃあっ!」

恐れもなくの とーんっと潔く、一直線に飛び込んで来た姿は、

『さながら野生の豹のように一丁前だった』

林田くんは そうと言うのだが。

「にゃぁん?」

勢いをつけ過ぎたせいか、
床にくっつけてた棒の先、幼い爪がはたいた途端に羽根が取れ。
ふわりと宙へ舞い上がるのを、あれれぇ?と見上げるその姿。
小さなあごを真上へと、一気に仰のけたせいでだろ。
重心がぶれたのに振り回されてか、
背後へ たたらを踏みかかり。
あわわ危ない、転ぶぞ痛いぞと、

「…島田先生まで飛び出して来ましたね。」

リビングへと入って来かけていたところから、
はっとして速足になり、
そりゃあ素早く屈み込んでの片膝突いて。
大きなその片手を延ばした勘兵衛の反射の、
何とも見事であったこと。
大人二人が必死で延べた手が重なったその上へ、
ほてんと尻から転がり込んだ幼子はと言えば、

「………。」

何が起きたかが判らぬか、
しばしキョトンとしていたが。

「…みゃっvv」

そんなところへヒラヒラと、外れた羽根が舞い降りて来て。
坊やの前髪へふわんと乗ったのへこそ いち早く気がついて。
首をふるると振り回し、
捕まえるのっと、小さなお手々を延ばして見せるのだけれども。

「ああ、手を振り回すから、
 羽根がまた舞い上がっちゃいましたね。」
「〜〜〜〜。//////////」

再び無邪気に駆け回る姿の、
何と可愛らしいことか……ってのは重々判りましたから。
どさくさ紛れに島田先生にすがりついての、
お熱いとこなんて見せつけないでくださいませな。//////


  そうかと思えば。


いただいた原稿、内容の確認を先にしてもらおうと、
編集長あてに社へとファックスで送り終え。
やれやれと書斎から戻って来た居間にて、

「? シチさん?」

フローリングへとじかに座り込む七郎次の背が見える。
だが、他の家人の気配はなくて、妙に静かなばかりの空間でもあり。
さっきまではあんなに賑やかだったのに、
一体どうしましたかと案じてのこと、
林田くんが掛けた声へ、ハッとしたよにお顔が上がり。
肩越しに振り向いた彼はというと、

「……。」
「?(はい?)」

口元へ人差し指を立てての“静かに”という仕草をするばかり。
何だ何だと、それでもそれに従ってのこと、足音忍ばせ、近寄れば。

「あ……。」

大きなアンパンを潰したような、
ふかふかの綿とビーズが一応は入っている、
大きめのラグクッションの上。
昨夜からという長い集中を途切らせず、
ついさっきまで頑張って頑張って、
原稿を上がったばかりの勘兵衛が、
さすがに疲れたか、陽だまりの中、
長々と横たわっての転た寝をしており。
それだけならば…ブランケットでも持って来ようと、
てきぱき動く秘書殿が、
その口元をうずうずと震わせ、なかなか動けなかったその訳は。

「ZZZZZZZ……………」
「みゅう………………………」

右の手を腹の上に乗せ、足元は…左の膝を何でか立てて。
長い蓬髪に頬を埋めるようにしてのお顔を傾け。
それは安らかにくうくうと眠っている、島田せんせいの腹の上。
右手も左足も全く同じなポージングにし、
お顔の傾きようもお揃いで。
柔らかそうなお腹を無防備にも丸出しにして、
久蔵までもが転た寝をしているではないかいな。

「…写メ、撮ってもいいっすか?」
「〜〜〜〜〜。////////(頷、頷、頷)」




◇◇◇      



こぉんなに愛らしいあれやこれや、
毎日毎日見せてくれる愛しい坊や。
そして、そんな坊やの一挙手一投足へ、
もうもうどうしてくれようかと、
拳をふるると震わせ、感極まってる、
金髪碧眼のそりゃあ麗しい美丈夫…と、それから。

「島田せんせいも、結構 目許口許がゆるんでますが。」
「む、仕方があるまい。」

あんな愛らしい姿に 心和まぬ者がおるかと。
思わぬ指摘に、油断していた我が身を知らされ、
それでも何とか…開き直ろうとしかけたものの。

「いやいやいや、
先生はどっちかというと“シチさんを見て”なようですが。」
「む。///」 (←あ・笑)

何とも平和な島田さんチだとの再確認をし合ってた、
そんな二人が見守る先では。
林田くんがお土産にと持って来た、
キッズ向けの調理器具を、説明書片手に稼働中。

「えっと。これで少し待てば…。」
「みゃうみゃうvv」

テーブルコンロのような機器の上、
鉢状のボウルを見下ろしている七郎次と久蔵であり。
向かい合っての挟み込むよにして、じっとじっと見つめておれば、
やがては じわじわと甘い香りが満ち始め。
そしてそして、

「みゃっ!」
「あああ、ダメだよ。手ぇ出しちゃ。」

糸屑みたいな、蜘蛛の巣みたいな何かが見える。
甘い匂いのする何かが、
つむじ風に乗ってくるくる回っているものだから、
仔猫の久蔵、たまらずに小さな手を伸ばしかかるが。
でもでもまだまだ我慢してと、
七郎次がやんわりとその手を掴み止めて。
小さな身体を懐へ掻い込むようにし、
そのままお膝へと抱え上げてやって。

「ほ〜ら、見ててごらん?」

空いてた側の手で割り箸を差し伸べれば、
その先にまといつくのは、甘い甘い綿状の飴。
くるくると回すほどにどんどんと大きくなってゆき、

「みゃぁう〜vv///////」

真っ赤な双眸、真ん丸に見開いて。
しゅごいしゅごいと、とんとんお尻で跳ねて見せる坊やへ、
さあどうぞと、坊やのお顔ほどにもなった、
大きな綿飴を差し出す七郎次であり。

「みゃんvv」
「あ、箸が抜けましたね。」
「いや、あれでよかろう。」

どうで あの手では持てやせぬのだし、
箸で顔を突いてしまいかねぬ。
ああ、そういやそうですね、ない方が安全か。
仔猫に見える林田くんと、坊やにしか見えぬ勘兵衛と。
なのに、意見が合うこともあるから不思議。
両手で掴んだ甘い甘い雲へとお顔を突っ込み、
しまいにゃ、ごろんちょと転がって。
四肢全部で抱え込んでの、
かぷかぷと格闘しもって平らげんとする、
小さな猛獣さんの可憐な暴れっぷりにさえ、

「〜〜〜〜。////////」
「…うん。あの姿は確かに掛け値なしに可愛い。」
「そうであろうが。」

向こうからお膝へ寄って来て、
小首を傾げて“にぁんvv”なんて甘えられちゃあ、
今にも泣き出すのではないかというお顔になるものだから。
当初はハラハラさせられもしたのだと、
やっぱり勘兵衛様は七郎次さんの態の方を言ってるらしくて。
悦に入るとはこんなお顔か、
いい年の壮年殿が、うんうんと頷きもって、
愛しい家人をうっとりと眺めているというのもまた、


 “……平和だよなぁ。”


私までもが、恋人作って家庭を持ちたくなりましたよと、
思わずのこと、くすすと微笑った編集さんで。
お口の回りに綿髭つけて、
またぞろ勘兵衛様とお揃いになった仔猫のお顔へ、
七郎次お兄さんがとうとう床へと突っ伏してしまったの。
窓の外ではスズカケの木立が、
しようのない人たちだねぇと、呆れたように微笑って見てた。





  〜Fine〜  09.05.14.


  *相変わらずに どっか変な先生のお宅ですが、
   ご堪能いただけましたでしょうか?
(おいこら)
   閉口するなんてとんでもない、
   今度はポップコーンマシーンを持って来ようかと、
   そんなことをば画策中の林田くんで。

  「あれはパンパンと弾ける音を怖がるんじゃないですかね」
  「それもそうですね。
   それじゃあ…カルメ焼きを焼く道具なんてのはいかがです?」
  「あ、あのぷくーって膨れる砂糖菓子ですか?」
  「ええ。思ってるより難しいんですよ、あれ。」
  「…すっかり縁日だの。」

   まったくですね。
(苦笑)

めるふぉvv 甘いのvv

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